さんざしの森から始まる物語　再会編　第3話

「それにしても、昨夜はどうしてサファイア様がドレスを抱えてお戻りになったのかしら？」
どんないきさつでサファイアがドレスを持ち帰ることになったのか思案してみましたが
乳母にはどうしても思いつきませんでした。

しかし　一つだけ想像できることがあります。
ドレスを着たサファイア様は美しかっただろう・・・
もしかしてどなたかに恋をなされたのではないだろうか？
でも　本人が何も話さない以上　乳母には聞く気はありませんでした。

そんな乳母の独り言を聞いている長っ鼻の男がいます。
この嫌味な男はジュラルミン大公の腹心であるナイロン卿でした。

「なに？サファイアがドレスを・・？
前から怪しいと思っていたがサファイアはやはり女に間違いない。」

いつもそう思うのだが確固たる証拠がなかったのである。
ナイロン卿もそれなりの知恵者ではあったが、サファイアの方が１枚上手だったのだ。
しかし　これはかなり有力な証拠になるはずだ。
とはいえ　乳母がやすやすと自分にドレスを渡すわけがないだろう。

「おや　そこにいるのはナイロン卿じゃないか。
ドレスを洗うのを手伝いにでもきたのかい？」

（また　サファイア様のことをなにか探りにきたのね。）

「いや　サファイア様のドレスがどうこう言うのが聞こえたのでね・・」
「あぁ　これね。友人にプレゼントしたいからとデザインを相談しにいらしただけさ。
それにしてもあんたは地獄耳だね」

「友人へのプレゼント？案外　自分で着るドレスだったりするんじゃないのか　乳母殿？」
「相変わらずサファイア様を女にしたいらしいが　あんな立派な王子様は私は知りませんけどねぇ。
手伝いに来たのでなければ邪魔だよ　帰っておくれ。」

乳母のあまりの剣幕に逃げるように去っていくナイロン卿の姿がおかしくて
サファイアは壁の影で声を殺して笑っているのでした。

「状況によっては僕が出て行こうと待機してたけどその必要はなかったみたいだね。」

「サファイア様　いつからそこに？」
「はじめからいたさ。ちょっと面白そうだったから見物してたよ。
それより面倒なことを頼んでしまって悪かったね。」

夕べは今にも崩れてしまいそうな儚げな印象があったサファイアだったが、
今日はいつものサファイアに戻っていました。
しかし　この元気な姿が本当の姿なのかどうかを計りかねて心配している乳母なのです。


「ねぇ　ドレスと一緒にこの手紙を入れてくれないかな？」

そういいながら　サファイアは昨夜書いた手紙を乳母に渡しました。

サファイアは乳母にドレスのことをもう一度お願いしてから　そのままオパールのいる
厩舎に向かおうと思っていたのです。
しかし　正門でなにやら騒いでいることに気が付きました。
正門に近づくにしたがって騒ぎの中に自分の名前が聞こえてくることに気が付きました。


「門番　一体なんの騒ぎなんだ？」
「はい　サファイア様。この若者が突然やってきてサファイア様に会わせろと申しまして・・・
しかも　自分はゴールドランドの王子だと申すのですが身分を照明するものを持っていないため
追い帰そうとしていたところです。」

不審者ってフランツ王子のことだったんだ。
このままだと不審者としてフランツ王子は追い返されてしまうな。

「彼の身分照明者が必要ならこのサファイアが申し出よう。
大丈夫だよ　彼は正真正銘のゴールドランドのフランツ王子だ。
フランツ王子　舎人たちの失礼をお許し下さい。」

「本物のフランツ王子様でしたか！それは失礼致しました。」
門番たちは一礼してその場を後にしました。」

「フランツ王子　ようこそシルバーランドへ参られました。」
「サファイア王子、君は何かを思い出して笑いをこらえているように見えるが・・・」

「ごめんよ　バレてたみたいだね。だって　さっきのフランツ王子の姿がおかしくて・・・」

今度は楽しそうに声を出して笑出だしたサファイアにつられてフランツも笑い出しだ。


「サファイア王子は僕の身元保証者なんだから責任を持ってくれよ。」
「はいはい、シルバーランド内では全ての責任を持たせてもらうよ。
それから僕のことはサファイアと呼んでくれないか？」
「わかったよ、サファイア。僕のことはフランツで良いさ。」

笑顔で自分を迎えてくれたサファイアはフランツのイメージしていた通りでした。
そして　何か用があるのかと訪問の理由を聞かない所にも感謝しているフランツなのです。


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