さんざしの森から始まる物語　友情編　第3話

このチンクという子供がサファイアの傍にいるという話は本当らしいな。
迷路のような城内を迷うことなく進んでいる。

なぜ　これほどまでにサファイアの力になってやりたいと思うのかは
自分でもわからない。
でも　心が『サファイアの力になってやりたい』とそう疼くんだ・・・

「着いたよ　ここがサファイアのお部屋だよ　王子様」

ドアをノックする音に気がついてサファイアが振り返るとそこには
チンクとフランツが立っていたのです。

「フランツ・・・王子？どうしてここに・・・・・？」

驚いたサファイアはそれ以上の言葉が出てこない。
大きな碧色の瞳でフランツを見つめていることしかできないのでした。

「ぼくが案内してきたの　サファイア。」
「チンクが？どうして？フランツに何か問題が起きたの？」

心配そうにチンクとフランツを見比べていたが差し迫った問題が
起きているようには見えません。
安心したサファイアはかすかに微笑みました。

「問題が起きてるのはサファイアの方だろう？
サファイアの家臣にナイロン卿とかいう胡散臭い奴がいるだろう？
あいつがサファイアが女の子か男の子のどちらかの証拠を探してるよ。」

「・・・・・・・・・」

「ねぇ　僕に力になれることは何かないかい？
サファイアの廻には僕にはわからない何かがあるんだろう？
そのことを聞こうとは思わない、でも　僕に出来ることが何かある気がするんだ。」

（そんなに優しい言葉をかけないで・・・・サファイアはフランツを頼ってしまう。
でも　それはフランツを危険な目にあわせることになってしまうわ。
ジュラルミン大公は卑劣な奴。だからフランツを巻き込んではいけないの。
フランツを傷つけるかもしれないもの。）

「ありがとう、その言葉だけでもサファイアは嬉しいよ。
でも　僕の事には係らないでくれないか？
ナイロン達の目的は僕から王位継承権を剥奪することなんだ。
この国の掟では女の子は王になれないからね。
だから　僕をどうしても女の子にしたいのさ。
他国の王位継承争いに首を挟んじゃダメだよ　フランツ。」

「確かに僕が首を挟むことじゃない。
しかし　サファイアの命がいつも危険にさらされてる訳だろ？
僕の知らないところで友が苦しんでいるのは嫌だね。」

（自分でもこんなに友情に熱いとは知らなかったよ。
でも　サファイアが苦しんでいる・・・という事よりも
僕の知らないところでサファイアが消えてしまいそうで恐いんだ。)

「ねぇ　サファイア王子。
我侭なゴールドランド王子は言い出したことは決して曲げないって知ってる？
欲しものは必ず手に入れるって噂は聞いてるかな？
この僕がサファイアの力になるって言ってるんだ。」

「僕は最後まで勝負を諦めないさ。だから負けたりしない。」

強い意志を持ち真っ直ぐ自分を見つめるサファイアの美しい瞳。

（サファイアの瞳は誰かに似ている気がする。
でも　誰に似ているのだろう・・・・？）

「頑固だね、サファイアは。
でもね　もしもサファイアと僕の立場が逆だったらサファイアはどうする？
きっと僕と同じ事を考えるんじゃないか？
サファイアの事だ、知らないぷりなんか出来ないだろ？
それと同じことだよ。」

「フランツ王子、サファイアはね　自分のせいで大切な人たちが傷つくのは嫌なんだ。
僕はね　とても弱いんだよ、弱虫なのさ。
大切な人が僕のせいで傷つく事には耐えるだけの強さがないんだ・・・
だから　一人で何とかしなくちゃいけない。一人なら耐えられるから・・・　」

サファイアの身体が小さく震えていることに気がついたフランツは次の言葉が出てこなかった。
一体サファイアが一人で必死に耐えてることって何なのだ？
フランツは目の前のサファイアがとても儚く今にも消えてしまいそうに思えたのです。


（サファイア　消えないでくれ！）


そう思った瞬間　サファイアの腕を握っていました。

「・・・・！・・・・」

「一人でそんなに頑張るなよ・・・サファイア。
どうせサファイアに嫌われてるついでさ、とことんサファイアに嫌われる事をしてやるよ。
だから　一人でそんなに耐えるなよ、わかったかい？」

「サファイアはフランツを嫌ってなんかいない！
嫌いになんかなれない・・・そんな気がする。」

「それを聞いて安心したよ、サファイア。」

二人の王子はお互いの頑固さと友情とそしてお互いにまだ気づいていない愛情を
改めて確認したかのように握手をするのでした。


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